伽藍の堂

読書の記録が中心です。たまに音楽や映画などの話も書きます。

Maison book girl 『bath room』を買う

 【アルバムの概要】

bath room

bath room

 

 

 前々回、Maison book girl 出演の映画の記事を書いた。

一か月以上前になってしまうのだが、彼女たちのアルバムが発売された。

 

 恋愛や卒業などの歌がアップテンポなメロディーとともに歌われる。

それが、アイドルグループの歌の定番である(多分)しかし、このアルバムは、綺麗な曲と、メランコリックな歌詞が特徴である。

 

Maison book girl|bath room 特設ページ

 

 

【アルバムについて】

 先ず、上記の特設ページが面白い。普通、アイドルグループとバスルーム、といえば、ホテルのような綺麗な浴室をイメージするだろう。また、性的なものを連想するかもしれない。

 しかし、この特設ページやメンバー紹介のページにある浴室は、少し汚く古びたものである。

 これには意味がある。アルバムの最後に「water」という曲があるのだが、正確には音楽ではなく、詩の朗読である。その詩は、水が流れる音の中で、過去に犯した罪を告白する内容になっている。(詳細は購入してください)

 つまり、この汚く狭い浴室は、「押し殺した過去」を表しているのだ。

 

 アルバム自体のジャケットもアイドルグループのCDでありながら、メンバーの写真などはない。こうした売り出し方が面白いと思う。

 

 

【楽曲について】

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 上記2の二つは、このアルバムに収録されている曲のMVである。

「bath room」の方は、映画『マイカット』の監督も務めた小根山

監督の撮影である。「snow irony」の方は、新衣装も使われていて、比較的アイドルらしいMVになっている。

 

 私は、「bath room」が好きである。MVやCDも良いのだが、ライブで観た時にイントロの手拍子の部分がとても良いのだ。最前列のファンの方々はきちんと合わせる。(私は、残念ながらリズム感がないので合わせられない)他には「最後のような彼女の曲」「remove」が良い。

 

 漠然とした表現となるが、この「bath room」というアルバムの楽曲は、荒廃した感じと透明な感じが併存している。そのような印象を受ける。

 

【最後に】

 アイドルグループの場合、歌唱力や楽器の演奏の巧拙がどうこうと言われることもある。しかし、ライブ会場の煽りや乗せ方、衣装、ダンス、MCなども含めた総合的な面白さがある。極端な話、だんだん上手くなるという成長を観ることも楽しさの一つでもある。

 

 

ななみ、 SILENT STREET LIVE 2015「この歌は街を黙らせる。」を観に行く。

2か月ぐらい更新していませんでした。すみません。

 

 さて、さる9月10日にななみ、というシンガーソングライターのストリートライブに行った。場所は桜木町。昨今、路上ライブの取り締まりは非常に厳しいものがある。騒音や人通りの妨げとなるためである。

 

 実は、この時までななみのことをほとんど知らなかった。YAMAHAの主催するミュージックレボリューションでグランプリを受賞した人という程度である。(ちなみに、酸欠少女さユりが5th、ななみが6thである)

 

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 「面白いことをやる」と宣伝があったので行ってみた。確かに、この時の路上ライブは一風変わっている。

 

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 サイレントストリートライブ、という名前の通り、道行く人には何も聞こえないのである。ヘッドフォンの貸し出しをしており、それを装着した人にしか音楽が聞こえないのだ。桜木町の駅前広場に人だかりができていた。これは本人の企画らしい。ただ、音の問題は解決できるが、コストがかかるため、頻繁にはできないようだ。

 一目見た印象では、クールな人なのかと思ったが、歌にノリノリの子供に笑いかける様はとても優しそうだった。

 

もう少しプロフィールなどを知りたいと思い、調べると昔の記事があった。

ななみ「愛が叫んでる」インタビュー (1/3) - 音楽ナタリー Power Push

 

 インタビューの最後の方で「武器は自分の半生」と答える部分は本当に凄いと思う。

 何度か同様のことを書いているが、死生学の根本は、病や死などを通じて、生きることの大切さに気付くことである。病に倒れたことから、晴れやかな気持ちになったこと、歌い続けることが他人を勇気づけると考えていることなどは、死生学的だなと思った。

 

 ただ、残念ながら言葉にしたものを読むだけであると、ありきたりのように思ってしまうかもしれない。なぜなら、世の中にはもっと過激な物語があふれているからだ。

 しかし、私がこの路上ライブに行った時は、「本当に伝えたいこと」があるような、切実さ、誠実さを感じた。

 

 百聞は一見に如かず。彼女の代表曲を一つ紹介する。

 

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 文学的なレトリックではなく、とてもストレートに愛を歌う。

「I live for love」直訳すれば、「愛のために生きる」。日本語にしてしまうと、ラブロマンスを連想してしまい、少し気恥ずかしい感じもする。しかし、ここで歌われる愛は恋愛ではない。もっと幅広く、思いやり、気遣い、ケアのようなものと考えても良いと思う。何よりも、歌声が素晴らしい。

 MVも良い作品である。蒼波純の物憂げな表情から微笑に変わるところが、歌のメッセージを引き立てる。

 

 ちなみに、ななみのギターには、マリアの絵が描かれている。聖母や天使というのは、ファンタジーやアニメの世界では、おなじみのものである。しかし、彼女はアニメチックなところはみじんもない。つまり、ファッションや「キャラ付け」と言ったものではなく、本当に使命感のようなものを持っているのだろうなとこのストリートライブで感じた。

 

 

愛が叫んでる

愛が叫んでる

 

 

 

ななみ

ななみ

 

 

 

I'll wake up

I'll wake up

 

 

 

 

 

 

8月22日(土)MOOSICLAB2015に行く(後編)

前回に引き続き、映画の感想。後編は『劇場版・復習のドミノマスク』である。

概要はこちら

福田洋主演!「劇場版・復讐のドミノマスク」映画制作プロジェクト! - CAMPFIRE(キャンプファイヤー)

 【内容】

 正義の味方ドミノマスクは、平和と大切な人を守るため、蘇った暗黒魔王と対決する、という物語である。プロレス、アイドル、ギターなど男の子的なガジエットに溢れている。

 完全なおバカ映画である(褒め言葉)展開もギャグもお約束そのものである。しかし、それでも、笑ってしまうパワーがある。

 先ず、タイトルにある「劇場版」であるが、youtubeに自主的にアップしてシリーズを映画でやったかららしい。いや、わからないだろ(笑)

 

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 突っ込みどころ満載というか、むしろ、それしかない。しかし、「細身のシャイボーイ」がギターを弾いて歌う場面がある。内容に反してかっこいい曲であり、それもまた笑いを誘う。また、出演者が本物のプロレスラーであるため、アクションシーンは迫力がある。そうしたディテールが光る。

 

 私の感想としては、花澤健吾的な面白さだなと思う。はっきりと言えば、この映画はダサい。しかし、映画の作りが悪いのではない。私たちの日常そのものがダサいのだ。男の子は「ヒーローになりたい」つまり、みんなのため、正義の味方、など「大きいもの」に憧れる。しかし、地に足がつかず、空回りしてしまう。「何やってんだか」と自分も周囲も思う。そうした、日常のダサさを面白おかしく描いている。

 

【まとめ】

 『マイカット』と『劇場版ドミノマスク』の二つは対照的であり、比較すると面白い。どちらも「大切なもののため」に行動する物語ではあるけれど、前者はより切実である。後者は「正義の味方になりたい」と少し抽象的である。女性的、男性的とも言える。男の子的な物語は現代では成就することができず滑稽になってしまう。いや、逆に妊娠と言うきっかけは「身重」という言葉の通り、地に足をつけざるを得ないのかもしれない。

 

 

8月22日(土)MOOSIC LAB2015に行く(前編)

新宿にあるK’Sシネマという場所で行われたMOOSICLAB2015

というものに行く。

概要はこちら

MOOSIC LAB 2015 | ケイズシネマ

 きっかけは、出演しているMaison book girlというアイドルグループが気になっていたからだ。とはいえ、にわかファンも良いところで、ライブも2回しか見ていない。しかし、音楽というか曲そのものが妙に印象的に残った。

 

 私が観たのは、コンピテーションAで「マイカット」と「劇場版ドミノマスク」の2本である。Maison book girlが出演しているのは、前者の方である。

 

先ずは、「マイカット」の感想から。

 

 アイドルグル―プが映画に出るというから、てっきり学園ものの青春映画なのかと思ったが、そうではない。かなり、シリアスな内容である。

MOOSIC LAB 2015上映作品◎映画『マイカット(仮)』製作プロジェクト - CAMPFIRE(キャンプファイヤー)

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【概要ときっかけ】

 多重人格の女性が妊娠したことをきっかけに、自己の内面と向き合う、という内容である。

 正直、このストーリーの概要を読んで、あまり興味をひかれなかった。以前、どこかに書いたが、私の中学高校時代は「心の闇」の時代であった。そのため映画や漫画、ドラマ、ゲームなどいたるところで多重人格を扱った作品が

あったからだ。「なぜ今更、多重人格などを扱うのだろう」と疑問であった。

 

 結論から言うと、「多重人格」というのは、テーマの中心ではない。いかに傷ついたのか、という心の闇の真相を追う物ではないからだ。もちろん、多重人格ならではのセリフなどもある。また、「心の家」の描写は『24人のビリーミリガン』を読んでたかどうかで、理解の程度が大きく変わるだろう。だが、単に「自己の葛藤」と敷衍して理解しても良いのかもしれない。いかに傷ついたのか、と過去へ戻るよりも、未来に向けての希望がある。

 

【個人的ベストシーン】

 私が、印象に残ったシーンは、矢川葵がウサギのシグレを撫でるシーンである。このウサギは元々あった4つの人格であり、矢川葵は新しく生まれた4つの人格の一つである。

 とはいえ、私はこのシーンをみてウサギのシグレを「胎児」の象徴だと思った。ウサギが丸まっているところから宿った胎児を連想したのである。ウサギは鳴かない。長い耳すなわち聴覚がある。人間も聴覚は胎内にいる段階から存在している。などのことからである。

 矢川葵が机の上でうずくまっているシグレを慈しむように撫でるシーンは「芽生えた母性」の象徴なのかと思えた。今までの人格の1つである、廣田朋菜がまわりの人格とぶつかるシーンとは対照的である。こうした、葛藤、せめぎあいも胎児であるシグレが「聴いている」のではないか。せめぎ合いを聴き、撫でられる。否定と肯定、相反する感情に新しい命であるシグレは接しているのだろう、と考えさせられた。

 

【その他の感想】

 ちなみに、この作品「アイドルが出演している」という記述はあるが、主役ではない。(みんなが主役?)そのため、アイドルファンでなくとも十分に楽しめる。「新しい命を授かる」ことを考えることが出来る作品でもあるので、女性の方に観てもらいたい。

 もう一つの感想としては、音楽が良かった。音楽は、Maison book girlのプロデューサー兼音楽担当が務めている。 

 

 

24人のビリー・ミリガン〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

24人のビリー・ミリガン〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

 

 

 

24人のビリー・ミリガン〈下〉 (ダニエル・キイス文庫)

24人のビリー・ミリガン〈下〉 (ダニエル・キイス文庫)

 

 

 

 

 

 

東京都美術館『伝説の洋画家たち』に行く

『うらめしや~冥途の土産』に引き続き、東京都美術館に行く。

内容は『伝説の洋画家たち仁科100年展』、場所は同じく上野である。

 

 『冥途の土産』はこじんまりとした美術館のため、少し物足りなかった。なので、引き続き歩いて行くことができる美術館に行く。つまり、ハシゴしたのである。(以下の画像は全てHPから)

展覧会の概要はこちらから↓

 

www.nika100th.com

 

仁科会という美術団体の歴史とともに、そこで活躍した芸術家の作品を追うものである。

この仁科会(にかかい)は現在も存続している。

www.nika.or.jp

 

 この展覧会は、とにかく作品数が多く、たっぷりと楽しむことができる。興味を持った方は、できれば2時間程度の余裕をもってご覧になって欲しい。

 

 【全体的な印象】

 20世紀の日本の画家、というと日本史や美術の授業ではほとんど扱うことがない。藤田嗣治岸田劉生など、ほとんど名前を聞いたことがあるにすぎず、他の画家は名前も知らなかった。

 

 全体的な印象として、日本人の洋画、というのはやはり独特のものがあってとても面白かった。当然、洋画の描き方であるのだが、風景や人物は日本のものである。「西洋の作品を真似ました」というものとは、一線を画する。

 

 かなりの独断と偏見で語ると、「赤」の色使い西洋の洋画とは異なる気がする。全体に赤を使った作品があるのだが、錆色というか銅の色というか少しくすんだ赤の作品が多かった。そのためか、あまり派手ではなく、落ち着いた印象を与えているように思う。

 

 【印象的な五つの作品】

パンフレットによると、130点以上もの作品が展示されている。

その中でも特に印象に残った作品をピックアップする。

先ず、

岡本太郎「重工業」

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 抽象画なので、意味などは理解しにくい。解説によると、ネギと歯車が描かれていることから、産業の変化を描いた作品のようだ。作品自体が大きいこともあるが、とにもかくにも存在感がある。むしろ、数ある作品の中でも何か得体のしれない圧迫感のようなものがある。ぜひ、生でご覧いただきたい。

 

萬鉄五郎「もたれて立つ人」

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 こちらも同じく、抽象画なのでやはり作品の意味などはわからない。しかし、前述したような赤銅色の作品であり、落ち着いたというか、成熟したというような印象がある作品である。

 

古賀春江『素朴な月夜』

 

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 タイトルには「素朴」とあるが、かなり派手でごちゃっとした作品である。シュールレアリスムの通り、テーブルの上に家、昼に満月など不思議な空間である。また、どこか南国のような生命力を感じる作品。

 

佐伯祐三「新聞屋」

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 画像で見ると、わかりにくいが、タイトルの新聞屋の入り口の部分は真っ黒である。普通、この角度というか構図で見たら中も多少は見えるだろう。しかし、真っ暗である。乱雑につっこまれた新聞とこの洞穴のような入口がどこか病的で不気味であり、印象に残る。

 

黒田重太郎『修道僧の像』

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 様々な色使いの作品が多い中で、かなりシックな色遣いの絵画である。

祈りを捧げる修道士、そして傍らにはどくろがある。むろん、本物の骸骨が転がっているわけではないだろう。象徴としての死、すなわち、メメントモリを暗示しているのだろう。これは、この展覧会の中でひときわ目立つものではないが、個人的にいいなと思う作品。

 

他にも、東郷青児『超現実派の散歩』

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 などがある。

 私はあえてバラバラなものをピックアップした。しかし、当然ながら展覧会では共通点などを踏まえて展示してある。とにかく見どころの多い美術館であった。各々の画家の展覧会も機会があれば行ってみたいと思った。

『うらめしや、冥途の土産』展覧会に行く。

今回は短めに書きます。

 

『うらめしや、冥途の土産』展覧会に行く。

場所は、東京芸術大学 大学美術館である。

概要は、こちら↓

東京新聞:うらめしや〜 冥途のみやげ展

 

館内も薄暗く、雰囲気が出ていた。

作品展のテーマは「うらみ」である。怨念や心残りなどによって、幽霊となった人間の絵である。無念に死んだ人間の姿が掛け軸や錦絵などで描かれている。

 単刀直入に言うと、予想していたよりも怖くはない。特に、錦絵などで有名な「お岩さん」などが描かれているのだが、現代のテレビゲームなどでなれているとバケモノの姿としては少し可愛く思えてしまう。楽しむためには、江戸時代の落語や怪談などの教養が必要になるだろう。

 

では、なぜこの展覧会に行ったことをわざわざ記事にしたのか?つまらなかった、という結論なのか?

 

 そうではない。私が、驚いたのは一つの作品である。

それは下の能面である。

「生成」で「なまなり」と読むらしい。

この能面は嫉妬や恨みの籠る女性の表情を描いたものである。

恨みによって段階があり、生成→般若→真蛇と変化するらしい。

 

 ・・・・こういう表情の人、身近に何人かいるな。

 その人達は、よく怒っているけれど、「烈火のごとく」というよりは、蛇のような湿り気と冷たさを感じると思った。なるほど、般若や真蛇へと変化する途上にいるのか、と納得してしまった。

読者のみなさんの身近にもいませんか?

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乱歩奇譚 EDについて追記

 乱歩奇譚EDについての追記。

 

 よく考えると、映像の最後の方は、ドミノ倒しになるシルエットをきちんと受け止めている。憎しみの連鎖かもしれないが、永遠に続くものではないのかもしれない。EDの中で「それでも誰かに見つけて欲しくて」という歌詞がある。この「誰か」とはもちろん、「誰でも」では良いわけではない。「意味のある他者」である。そうした人と出会い、関わることで、憎しみの連鎖を断ち切ることが出来るのかもしれない。そうした希望のあるEDと解釈できる。