伽藍の堂

読書の記録が中心です。たまに音楽や映画などの話も書きます。

「若者のための政治マニュアル」

若者のための政治マニュアル (講談社現代新書)

若者のための政治マニュアル (講談社現代新書)

【評価】 ★★★★

【紹介】

 政治マニュアルとあるが、具体的な行動の話ではない。政治を支える民主主義の理念の説明である。10のルールに分けて、現代社会の問題と民主主義の理念や政治学の理論を論じている。

【引用】

「人は同じようなことで苦しんでいるものだ、だから助け合える」

【感想】

 長年、イギリスと日本の政治を比較研究してきた政治学者の本である。どうみても左翼である。しかし、サヨクではない。サヨクは反対行動をすることを目的とする。つまり、反対のための反対をするのがサヨクである。一方、理念と理論に基づいてノーを叫ぶのが左翼である。両者は似ているが異なる。

 確かに、言っていることに具体的な解決策は示されていない。「今すぐ何をすればいいのか」という疑問には著者は答えてはいないのだ。しかし、今すぐできることなど「反対のための反対」しかないのだ。今、現代社会で生じている問題は非常に複雑なものだからだ。

 安直な行動よりも、立ち位置を捉えなおすことが大切である。著者の述べるような権利や理念について再考すること、そして自らが「もし自分が弱者になったら?」という視点を持って考えることが重要なのである。なぜリスクは社会で分配する必要があるのか、連帯や包摂の概念もわかりやすく述べられている。

 若者といえばバッシングの対象になりがちであり、自己責任と切り捨てられがちな昨今において「自信を持ってわがままになろう」という呼びかけは非常に興味深い。

 私が一番危険だと思う思想は、「自分が成功したのは自分の努力によるものである。失敗したものは努力不足である」という幼稚な考えである。どれだけ有能だと認められている人間でも生まれた時は無力であり、老いや病で死ぬときもまた無力なのである。