伽藍の堂

読書の記録が中心です。たまに音楽や映画などの話も書きます。

『夜の国のクーパー』を読了

 

夜の国のクーパー (創元推理文庫)
 

 

人間の男性と猫の視点がある物語。

現代の日本ではなく、寓話的な世界である。

壁や「自分が真実だと思てっていることを疑え」

など現代社会にも通じるメッセージがある。

しかし、それよりもこの本を初めとする伊坂ワールドの真骨頂は

「ヒーローの不在」である。特殊な能力者やキャラの濃い人物は出てくる。

とはいえ、彼らは名探偵のように謎を解き明かすことも、時代劇のように敵をバタバタと倒すことはない。個人の能力は、万能ではなく、謎を解き明かす鍵の断片にしかならない。

 

 こうしたちっぽけで普通の主人公が、悪意の塊と対決しようとするところが伊坂ワールドの面白いところである。また、主人公の周囲との関わりも面白い。少年漫画にある仲間のように強固とは言えず、緩いつながりである。その周囲の人間の意思と行為が、緩いつながりによって、リレーのバトンのよう託すように悪と戦うことに貢献している。

 そこが痛快である。