綿矢りさ『かわいそうだね』読了
綿矢りさの「かわいそうだね」を読む。中編集であり、表題の
『かわいそうだね』と『亜美ちゃんは美人』が収録されている。
ここでは、『亜美ちゃんは美人』を取り上げて述べる。
綿矢りさの小説の中でも、とりわけ登場人物が残酷である。
暴力や殺人、虐待などの事件を扱うわけではない。しかし、
人間の心をえぐる作品だ。
主人公のさかきはカスミソウのように目立たない女の子である。その友達の亜美ちゃんは薔薇のようにみんなから愛される女の子である。そして、亜美ちゃんのの大ファンである小池君が物語の中心人物となる。
社会人となり、亜美ちゃんはタチの悪い男にひっかかる。それを知った
主人公への小池君の一言が秀逸だ。
「私?私はそりゃできればもっと良い男と付き合って欲しいけど、初めて人を本気で好きになったと言った亜美は幸せそうだったから、心配ながらも見守っていこうと思ったんだけど」
「復讐できる機会ですね」
とさかきの欺瞞を打ち破る。
亜美に無関心の崇志さんのまなざしの温度と、高校生のときの私が亜美をみつめた私のまなざしの温度は、きっと同じくらい冷めている。
と自分が亜美を好きではなかったことを冷静に受け入れる。
崇志さんの可能性を信じよう。彼がいつか、亜美に目を向ける日が来ることを、信じる。だって高校生のときは考えられなかったけど、今では私も、亜美をこんなにも。「支えるから」
さかきの亜美への感情は、嫉妬でもあり愛おしさでもある。この愛おしさは
亜美ちゃんが「可愛い」からではない。そうした幻想を押し付けられていて寂しがっていることを深く理解しているからだ。綿矢りさはこうした微妙な関係、心の機微を捉えるのが本当にうまい。
幻想を押し付けらて自分を見失う、という心境は『夢を与える』にも通ずるなと思う。