伽藍の堂

読書の記録が中心です。たまに音楽や映画などの話も書きます。

『あしながおじさん』読了

名前は有名だけど、意外と本で読んだことがない

シリーズ第2弾

 

 

 

あしながおじさん (光文社古典新訳文庫)

あしながおじさん (光文社古典新訳文庫)

 

  作品のタイトル自体はとにかく有名だ。子どもの頃、世界名作劇場のアニメで観た人も多いはず。しかし、意外と本で読んだ人は少ないのでは。子どもの向けの本で読むのかな。

 

 前述の通り、世界名作劇場でアニメ化されているので、その印象が強い。

しかし、改めて読んでみると、「よく映像化したな」と思う。なぜなら、書簡形式、つまり、「あしながおじさん」という奨学金を出してくれる資産家に対して手紙を送る、という形式で物語が進むからだ。情景描写、人物描写などは全て手紙の中でしかない。これを映像化するのは大変だと思う。

 

 私も、昔アニメを見たことがある。おぼろげながら覚えている。この本との印象の違いを述べる。アニメ版は主人公が少女という印象が強い。感情表現が豊かでおおげさな印象がある。しかし、本の中ではハイティーンから20歳程度である。当時としては、十分な大人であろう。

 

 また、児童向けの本の場合、カットされているかもしれないが、当時、女性に選挙権がなかったことに皮肉を言う場面がある。また、当時の孤児院つまり貧困層出身から大学進学(しかも当時の女性)することでの戸惑いなど今読むと興味深いところが多い。周囲が当然読んでいる本を自分が読んでいなかったことを恥じ入る場面などがある。こうした、時代背景などがわかって読むと子供時代とは違った見方が出来る。

 

 最後に、私が面白いと思うのは、当時のアメリカの大学生生活である。この本は当時の学生時代がよくわかる。現代日本では、実学や就職のための勉学と言われるが、当時のアメリカは全く違う。ルソー、ホメロスシェイクスピア、バーネットなどの本を読んでいる、また、文系理系も当然なく生物学や論理学などを学ぶ場面もある。もちろん、現代の日本とは進学率が大きく違う。昔のやり方が良いとも思わない。ただ、主人公が過ごした学生時代をほほえましく思うのである。

 

 さらに、確かに学校という空間は、「目的を持て。ムダをなくせ」とせわしく掻き立てるように変化している。しかし、彼女が学生の時に読んだ本と言うのは、現代の日本では500円~1000円程度で全て手に入るのだ。

この日本の出版文化は本当にすごいと思う。