伽藍の堂

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「社会とどうかかわるか 公共哲学からのヒント」

社会とどうかかわるか――公共哲学からのヒント (岩波ジュニア新書 608)

社会とどうかかわるか――公共哲学からのヒント (岩波ジュニア新書 608)

【評価】 ★★★★

【紹介】

 公共哲学は、個人ひとりひとりがどう社会とかかわるかという問題を扱う学問である。
それは、「滅私奉公」の歪んだ社会との関わり方ではない。社会との理想的な関わり方として「活私開公」という価値観とライフスタイルを推奨している。

 20世紀は、近代化や産業化の弊害として、自分を押し殺し、全体に奉仕する「滅私奉公」の社会になってしまった。その後、個人を尊重することの重要性が指摘された。しかし、これは利己主義に「滅公奉私」の社会をもたらすことになった。

 そこで、著者が提唱すのが「活私開公」である。私という個人一人一人を活かし、他人と合意を形成し、社会をよりよくしていくという考え方である。そのためには、「公共的感情」「公共的理性」「公共的想像力」が必要である。これらが、私的な能力と異なるのは、他者と分かち合うことができるという点である。

【名言】

「多次元的、応答的、生成的に、自分と他者の公共的世界を理解していくつながりかた」


【感想】

 公共哲学は古くて新しい概念だという印象を受けた。概念の説明として、ソクラテスからアダム・スミスアマルティア・センまでを参照しているあたりからそのように感じた。
私が面白いと感じたのは、2点である。

 一つは、専門家のための哲学ではない、という点である。専門家は自分達の分野における哲学や思想を持っている。医療哲学、教育哲学、福祉哲学などである。しかし、公共哲学は、公務員のものではない。企業や、NPO、NGOなど様々な分野に活かせるものである。つまり、社会の構成員である我々のための哲学なのである。

 もう一つは、社会的合意形成を重視している点である。本書で言及されていた孔子の「和して同せず」という考えである。民主主義的な合意形成を重要視するが、単純な多数決では上手くいかないことをよく表している。

 社会福祉社会福祉のあり方を考える上で、公共哲学の考え方は有益だろう。というよりも社会福祉の哲学は公共哲学の一分野になった方が理解が得られると思う。