「福祉ってなんだ」
- 作者: 古川孝順
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/01/22
- メディア: 新書
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【評価】 ★★★★★
【紹介】
社会福祉の概論である。社会福祉の歴史、対象となる社会的ニーズ、社会福祉の仕組みや、サービスプログラムを概説したものである。
【名言】
「社会福祉は社会的バルネラブルな状態にある人びとに提供される社会サービスの一つ」
【感想】
著者は初学者向けに書いたと言っているが、内容が大まかななため興味を持って読むことは難しいだろう。では、本書は駄作かというとそうではない。むしろ、ある程度社会福祉を学んだ人間が、社会福祉を俯瞰することに有益である。なぜならば、社会福祉の分野は細分化されすぎているからだ。そのため、各論の本は多く出ているが、概観できる本は少ないからである。ゆえに、岩波ジュニア新書ではなく、岩波新書の方で出版し、学部の講義などに使えるようにするべきである。
本書で私が興味をもったことは二点ある。
一つは、「社会的バルネラビリティ」という概念である。自立的で持続的であることが難しいということでは「社会的弱者」と同様である。しかし、社会的弱者には、受動的、消極的であるというイメージがある。そこで「社会的バルネラブルな人びと」と表現することにより、一方的な庇護の対象ではないという位置づけにしたいという著者の考えは興味深い。また、それに基づく社会福祉の概念規定(p12)も同様に興味深い。
もう一つは、科学としての社会福祉における著者の考えである。著者によれば、社会福祉学は、学際科学から融合科学へと変貌を遂げる中間地点にあるという。学際科学は、共通の研究対象に既成科学の方法や知識を使いまとまったものである。最初は単なる既成科学の応用領域であったものが、複合科学へさらに融合科学へと変化する。融合科学は、既成科学を援用したものであるが、そのどれとも異なるものである、と著者は述べる。私にとっては、融合科学としての社会福祉学というのは想像できない。特に、ソーシャルワークの理論と政策理論をどのように融合させるのかは全くわからない。だが、単なる医療のオマケではないように哲学、政策、援助理論を構築し、社会的認知度を上昇し、社会的ニーズに答えて欲しいと思う。