『国語教科書の思想』
- 作者: 石原千秋
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/10/04
- メディア: 新書
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【評価】 ★★★★★
仕事用
【紹介】
国語の教科書をテクストとみなして言説分析と構造分析を通じて、国語の教科書にある思想を読み解こうとするものである。ここで重要であるのは、表面的な意図ではなく無意識の部分の意図までも含めて分析している点である。
第一章は、メディアで報道されている読解力低下問題について論じてある。日本で行われてる国語教育は道徳教育である。教訓や道徳を理解する能力を養成しているのであって、PISAなどで求めている能力(批評する能力)とは異なるそもそも方向性が異なることを著者は指摘している。
第二章は、小学生の国語である小学校の国語は動物が登場人物であることが多く自然との共生や近代批判につながっているものが多いという。また、メディアの情報を理解するための技術もあるがそれは道徳的なものに限られていることや、メッセージを伝えるための他者がいないことが指摘されている。
第三章は、中学生の国語である。中学生では、「伝え合うこと」が重要視されている。これは、「従順な心」を持ち、他人指向型の人間を育成するものであると指摘する。また、環境問題など社会的なテーマを扱ったものもあるが、「一人一人」の意識が重要という個人の意識の問題へと還元される。
【感想】
国語の教科書に隠されている思想をテクスト論の立場から読み解くものである。非常に面白かった。著者は文章に皮肉をたっぷりとのせる書き方をする。それが、文部科学省や新聞社に向かった第一章は痛快である。確かに「読解力が低下」という報道を前に様々な社説があったが、それ自体が読解力の低さを思わせるものであった。
また、ディベート教育のおそまつさには笑った。まあ、教科書に載せているとはいえ、こうした考える技術を持たない教師が教えるので仕方がないという思いはある。
大学時代にディスカッションをすると必ず一人は「一人一人の意識を高めて」という愚昧な精神論を振りかざすのだが、これは国語の教科書的な発想なのだと理解した。
この本では述べられていないが、道徳教育や他者の不在などをあらわすのは作文教育であると思う。「自由に、ただし望まれる形で」というのが一番端的に表れている。