綿矢りさ『しょうがの味は熱い』を読了
私が読んだのは文庫版である。
恋愛と結婚の間にある同棲生活を描いた物語である。恋愛と言う気持ちの問題と結婚と言う生活の問題のちょうど中間地点にいる男女の話である。
物語の登場人物が少ない。田畑絃と小林奈世の二人しかほとんど出てこない。また、ストーリー構成も極めてシンプルであり、まるでレディースコミックのようである。
しかし、男女のすれ違いが上手く描写されている。私は同棲も結婚も経験がないけれど、きっとこういう気持ちになるだろうな、とイメージできる。
つまり、リアリティがある。同棲生活という中途半端な関係、「近くて遠い」そんな感じの関係性が見事に描写されている。
例えば、以下のように。
明日のために眠る絃と今日を終わらせるために眠る私が、ベッドを共有し、眠りを伝染しあう。二人いっしょに小さなボートに乗って底の見えない苔で濁った湖を進む。たがいに別々の夢を見ていたとしても、同じボートに乗っているから、手を伸ばせば手がある。
「手がある」ことに安心するあたりが同棲生活の関係性を上手く表現していると思う。「手をつなぎたい」だと恋愛の最中になるし。
もう一つ、気になった点。田畑絃という男性は、かなり現実的な思考をする。会社の飲み会について、「空気読めよ」的に考えたり、結婚という言葉にためらいを感じたりと、同年代の男性が読んだとしても違和感のない人物だろう。
なぜ、そこが気になるか。私が好きな島本理生や岩井俊二によく出てくる男性像とは異なる。彼らはたいていネバーランドに住んでいる。いや、だから好きなんだけど。