伽藍の堂

読書の記録が中心です。たまに音楽や映画などの話も書きます。

「同性愛と異性愛」

同性愛と異性愛 (岩波新書)

同性愛と異性愛 (岩波新書)

【評価】 ★★★★★

【紹介】

 日本は非キリスト教圏であるため、同性愛に寛容な社会であると言われている。しかし、それは本当なのだろうか。本書は、エイズパニックの問題や公共施設の利用に関する問題を例に、日本の社会におけるホモフォビア異性愛主義をあぶりだす。また、同性愛者が処罰される対象から治療される対象に変化した歴史的な経緯を論じている。その上で、同性愛者の社会的サポートの必要性を述べる。


【名言】

「カミングアウトの物語は、逆説的なことにつねにクローゼットに支えられている」


【感想】

 性は多様である。であるがゆえに、それを認め受け入れられるようにすることは難しい。例えば、本書で言われる「性的嗜好sexual preference」「sexual orientation」という考え方の違いである。前者は、趣味や好みの問題であり、後者はどのような性別の人に性的な欲望を抱くのかという問題である。同性愛者の団体は、後者の言葉を使うことによって、異性愛も同性愛も同等であると主張した。しかし、「性的志向」という言葉は、その性は誰で対象になると一元的に捉えられてしまう。

 興味深いのは、著者のメディアへの考え方である。テレビタレントのオネエキャラやBLは異性愛主義に基づいたものであると著者は述べる。しかし、それらの流行によって、マイノリティのイメージを社会の中で見えるようにした、とも述べる。さらに、ではなぜレズビアンのタレントは出てこないのか、という見えなくなったものもあると言う。こうした糾弾だけではなく、冷静に考察する態度は見習いたい。

 本書の一番よい所は、ジェンダーや同性愛に考えたい人向けの案内が充実していることである。しかもブックガイドだけでなく、手に取りやすいように映画の紹介もしていることは高く評価したい。